第95章 暗夜
―――――夜会当日。
私はほんの少し遅れて王宮に到着した。扉が開かれると、視線が集まる。
“オーウェンズの娘だ。悪妻と共に家を売ったらしいぞ。怖いねぇ。”
“調査兵団に入ったと聞いていたが、家に戻ったのか?”
“――――年々奥方に似てくるな、忌まわしい……禍々しい美貌だ。”
“めっきり弟は表に出て来なくなったじゃないか。あの良くない噂の信憑性も上がるな。”
“――――ライオネル公爵と調査兵団団長がとりあっているらしいぞ?とんでもない男たらしだね。”
――――まぁその九割が良くない噂と視線だけれど、気にしない。
だって今日は―――――どんな怖い事が起こっても大丈夫だと思える、この世で最も信じてる2人が同じこの場所にいる。
5年前のあの日、エルヴィンと出会ったのは運命だと、当時そう直感した。今もそう信じてる。
そして同じく―――――リヴァイさんと再会したのもまた、運命だと信じて疑わない。その目線の先に、不機嫌そうに腕を組んで壁に寄りかかるリヴァイ兵士長の姿がある。目が合ったから小さく微笑みを向けたけれど、すぐにその目は逸らされた。
「――――お久しぶりです。まさかまた会えるなんて、光栄です。」
――――その声に、5年前をなぞった悪戯に、ふふっと笑いが込み上げる。
「――――つい最近お会いしたはずですが?調査兵団――――エルヴィン団長。」
「――――そうでしたか?麗しい女性を見かけたので、つい声をかけてしまった。」
そう言って私の左手をとり、紳士の振る舞いで手の甲にキスをした。
「――――ナナ、遅かったじゃないか。」
エルヴィンと話をしていると背後から声がかかった。ボルツマンさんだ。
「ボルツマンさん。」
「ああ、リカルドから噂は聞いていたが――――彼がそうか。」
「はい、調査兵団のエルヴィン・スミス団長です。」
私が紹介すると、エルヴィン団長はボルツマンさんに握手を求めた。