第95章 暗夜
ハルの面前でお姫様と言ったり、こんなお店の方の前で平然と甘い言葉を言われることに、まだ慣れない。頬が熱を持った。
でもなんだか悪い気はしない。
ワーナーさんの本で見た、古の女神の装束のようで、私は少しだけ嬉しくなりながら鏡の前でくるくると、あらゆる角度からそのドレスの美しさに見惚れた。
「――――驚くほどお似合いです。そして素晴らしい、これほど相手の女性に似合うものとサイズを的確に把握されているあなたも……。さぞかし愛していらっしゃるのでしょう。」
「はは、ええ。図星です。そう言えば――――――、最近多いのですか?ブライズメイド……でしたか、それ絡みのオーダーが。華やかで素敵ですね。」
「あぁはい、こんな時世だから結婚式には夢を持たせたいのか、特に王都の令嬢の間で人気ですよ。ナナお嬢さんのドレスも、幸せの門出を祝うに相応しいドレスになっていると自負しています。ご友人も喜ばれるでしょう。」
「―――――そうですね。―――――もう、残りも仕立て上がっているんですか?」
「ええ、少し短納期でしたがね。なんとか。」
「―――――そうですか。」
店主とエルヴィンが何かを話していたようだったけれど、私は思いがけずその真っ白なドレスに夢中で詳細まで聞いていなかった。
しばらくして元々依頼していたドレスを抱えて帰路に着く。
「……エルヴィンどうしたの?怖い顔。」
「……いや、なんでもない。――――本当に買わなくて良かったのか?ウエディングドレス、実はまんざらでもなかった様子だったぞ?」
「――――い、いいの……!」
「女の子なんだな、と思った。目を輝かせて―――――可愛いことこの上ない。君が望むならいつでも花嫁にしてあげられるのに。俺の妻に。」
エルヴィンがふふ、と笑う。
あ、この顔は。
「―――――何をはぐらかそうとしてるの?」
「――――………。」
「怖い事でも、あるの?」
私が問うと、エルヴィンが目を見開いて、今度は本当に“困った”と小さく笑った。
「――――大丈夫だ。俺達がいる。」