第95章 暗夜
深いグレーで、上半身はタイトに作られている。
腰までは身体の線にぴたっと沿い、そこからは裾に向かって自然と広がり、後ろの裾が少しだけ長い作りだ。シルクのような光沢のある生地ではなく、総レースだ。前回の背中の開いたドレスといい、着るものも随分大人になったなと自分でも思う。
「とても良くお似合いですよ。」
店主も仕上がりに満足しているように嬉しそうに笑う。
「―――じゃあこのまま持ち帰ります。これで、用事は終わり―――――。」
「あれ、こちらの試着を忘れていますよ。」
「え?」
そう言って差し出されたのは、真っ白なドレスだ。
広げてみると、まるで外の世界の本で見た、古の女神の装束のような―――――たっぷりのチュールを胸の下で切り替えたドレスだ。
「――――え、頼んでな――――……。」
そう言いかけてエルヴィンの方を見ると、頬杖をついてにこにことこちらを見ている。
「エルヴィン!」
「何も買うとはまだ言ってないぞ?着るだけだ、着るだけ。」
「いいですね、幸せは連鎖するものですから。今度はお二人の挙式ですか。――――こちらは既製品ですが、もしよければ最高のウエディングドレスを仕立てますよ。」
「えっ、いや、その……そういうわけじゃ……!」
――――本当に妻にすることを諦めてない、というかむしろ仕掛けてきてる。
強引過ぎるそこに少し呆れつつもなんだか微笑んでしまうのは、エルヴィンがとても幸せそうに笑うからだ。
「………着るだけね。」
「ああ。」
そう言って試着室の扉を閉めた。
試着室から出て来た私を見て、エルヴィンはとても満足げににこりと微笑んで、はぁ、とため息をついた。
「え、変……?」
「――――いや逆だ、美しすぎて困ってる。」