第95章 暗夜
「――――別に、好きにしたらいいけど。」
ふん、とわざとらしくそっぽを向いた。
「おや、どうしたんだ俺のお姫様はご機嫌斜めだな?」
「~~~~ハルの前でそれ、言わないで!」
「――――ほらほら、それくらいにしてもう寝てくださいね?お姫様。」
「~~~~ハル!!!!」
私がどうやっても敵わない2人にタッグを組まれてしまったら、なにも言い返せない。ハルとエルヴィンは気が合うようで、揃って私をからかう。
「はは、すまない。こういった家族団欒という雰囲気が懐かしくて楽しくてつい。怒らないでくれ、ナナ。」
「…………別に、いいけど………。」
その言い方がまたずるい。私が頬を膨らませて俯くと、そっと私の前に手を差し伸べた。
「――――部屋まで送る。行こうか、ナナ。」
「―――うん。」
その蒼い瞳が私を映すと、驚くほど素直に甘えてしまう。その様子をハルが見て、嬉しそうに微笑んだ。
翌日、馬車でエルヴィンと2人、王都の仕立て屋に向かった。道中、エルヴィンが何かを警戒しているように見えたけれど、また中央憲兵の影でも感じているのだろうか。私も気を張ってみるけれど、その気配は全くわからなかった。
店に入ると、仕立て屋の小柄で眼鏡をかけた品の良さそうな初老の店主が愛想よく笑顔で奥から出て来てくれる。
「――――ああ、ナナお嬢さん。」
「こんにちは。お願いしていたドレスを試着しに来ました。」
「ええ、お待ちしていました。えぇっと………あれ、どっちだったかな……。」
「――――………。」
今日は休みで、これは私用のはずなのにエルヴィンが、“団長”の顔だ。どうしたんだろうと不思議に思いながら仕立てあがったドレスに身を包み、試着室から顔を出すとエルヴィンが嬉しそうに柔らかい眼差しを向ける。
良かった、“エルヴィン”の顔になった、と少し安心した。
「いいな、とても綺麗だ。」