第94章 寒慄
「――――大げさじゃない。君がいる夜といない夜はまるで違う。」
「――――正直に、言うね。」
「ああ。」
「ちょっと今すごくすごく心が乱れていて―――――……どうしていいか、わからない。」
こんなことを言うようになったのも、大きな変化だ。
前までのナナなら、なんでもないと笑顔で隠して、1人でなんとかその気持ちを処理しようとしてきていた。
――――俺を信じて、頼っているんだと実感できることが嬉しい。
「――――それは俺に後ろめたい話か?」
「――――うん。」
「正直だな。それで、俺にどうして欲しい?怒って欲しいのか――――許して欲しいのか?」
「――――ひどくして………。」
ナナの選んだ言葉に驚く。
――――何かのきっかけでリヴァイへの想いが、また湧き出たんだろう。先日の2人での外出といい、そんな可能性は大いにあると思っていた。
だが、リヴァイはそれ以上ナナに手を出さないし、ナナもそれ以上リヴァイに近寄らない。
これはもう―――――三者の暗黙の了解だ。
だからその中で沸き起こる感情くらい、彼女の望むように処理させてやりたい。
罪悪感を、俺からひどい扱いを受けることで掻き消したいのか。それならそれに、応じよう。
「――――ふらふらする私を許さなくていい………。」
「いいのか?それはまぁ得意な分野だし―――――俺にとって好都合だ。有り難くいただこう。」
俺の言葉にナナは目を丸くして、そしてふにゃ、とした顔で切なく笑った。
「――――こんな時まで優しいなんて、エルヴィンは私を愛しすぎてる。」
「――――わかりきってることだろう。それに―――――そこに付け込む君も、なかなかの悪い女だ。」
「――――わかりきってることでしょう?」
2人目を合わせて笑い合って、唇を絡めて舌を絡めて、ナナが細い腕を俺の首に絡めて―――――
まるで当てつけのように、聖夜とはかけはなれた欲にまみれた夜を過ごした。