第94章 寒慄
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ナナが分かりやすく落ち込む。
リヴァイの誕生日を屋上で1人祝って、俺の事が頭を過ったんだろう。そう言えば知らないと。
ほんの少しの嫉妬心からくる意地悪は大目に見てもらいたい。
だが、やはりしょんぼりと目線を落とす彼女は可愛くて、ついつい甘やかしてしまう。
「――――意地悪をして悪かったよ。本当に気にしてない。誕生日を誰かに言ったこともしばらくないし――――、誕生日を祝うという習慣もないからな。」
ナナは俺の言葉を目をじっと見つめて聞いたあと、ぱっと華やかな笑顔を見せた。
「じゃあしようよ、26年分。盛大に。」
「―――――……!」
――――言っていないのに察する。
彼女のこういうところに頭が下がる。
そう、あの時までは父と母に祝ってもらっていた記憶がある。あの時―――――父が死んで母が病院に入ってからだ。俺が誕生日に期待も喜びも感じなくなったのは。
一連の俺の過去を聞いて――――想いを馳せて、俺を感じようとしてくれたからそこに気付くんだろうと思うと、たまらなく嬉しくなる。
「エルヴィン?」
「――――ああそうだな、これからは君が祝ってくれるなら―――――誕生日も悪くない。」
その頬に手を添える。
ナナの目の奥にわずかに陰りが見える。何かあったんだろう、リヴァイのことか―――――最近気になるのはアリシアのことか。
「――――俺のベッドを使っていい。色々と忙しかったからな、ゆっくり休むといい。」
「―――――……しないの……?できるよ………?」
「君がしたいなら。」
「――――ずるい……。」
「もともと今日はナナのいない夜を過ごす覚悟がもうできていたから。」
「覚悟って……大げさ。」
ナナがふふ、と笑う。
その顎をすくい取って、唇を重ねる。