第94章 寒慄
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扉を控えめにノックする。もう日が変わっているから。
今日はハンジさんの私室に泊めてもらう予定になっていたけど、ハンジさんは翼の日の打ち上げでかなりお酒を飲んでいて、酔いつぶれたところをモブリットさんに運ばれて行ったのを見かけた。おそらく一人で寝かせてあげた方が良さそうだ。
返事なく、団長室の扉が少し開いた。
「――――ナナ。……あぁそうか、ハンジが潰れたからか?」
その落ち着いた笑みを見ると安心する。
私はとん、とエルヴィンの胸に身体を預けた。
「――――どうした。今日はここには来ないと思っていたから――――、嬉しい。」
エルヴィンが私を引き入れて扉を閉めると、優しく抱き寄せて頭を撫でてくれた。
「………エルヴィンの誕生日はいつ?」
「誕生日?」
見上げて問うと、少し驚いたような顔をしてからふっと笑った。
「――――教えない。」
「えっ。」
想定外の意地悪に、その胸をとんとんと叩いてみる。
「なんで?」
「君と歳の話はしたくないし、俺は君の誕生日が祝えればそれでいい。」
「誕生日を隠してても歳はとるよ。」
「辛辣だな。だがその通りだ。」
エルヴィンはまたははっと笑った。
「――――知りたい、エルヴィンが生まれた日……。」
拗ねたようにして見せると、エルヴィンは眉を下げて仕方ないな、という顔をした。
「10月14日。」
「――――過ぎてる……!」
ショックだ。
今まで祝えなかった分、盛大にお祝いしなきゃと思っていたのに……。
「そうだよ?リヴァイの誕生日を祝う君を、祝ってもらえなかった俺がどんな気持ちでこの部屋で待ってたか聞きたいか?」
「~~~~ごめん、なさい………。」
しょんぼりと肩を落とす。
でもエルヴィンは以前よりもリヴァイさんのことを当たり前に話すようになった。私の中でいつまでも彼は特別であることも分かっていて、それでも話題に、こうしてふざけて話すということは――――以前よりも私を信じてもらえているのかなと、少しだけ期待をする。