第94章 寒慄
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ナナが屋上から去ってからしばらくして、また扉が開いた。月明りで映し出されたその陰の大きさで、そいつだとすぐにわかる。
「――――ミケ。」
「リヴァイ。いたのか。」
「――――いたのか、じゃねぇだろう。なんの真似だ。」
「なんの真似とは?」
「とぼけるな。俺に『夜風にでも当たって来い』と意味深な事を言いやがって。ここにナナが来る事を知っていたのか?」
「――――さぁ。偶然じゃないか。」
「……ちっ………、普通なら、『ナナが来たのか?』と返すもんだ。お前の反応はそれを知っていたとしか思えねぇよ。」
ミケが何を考えてこんな、らしくもねぇ取り計らいをしたのか俺は知りたかった。
「――――そういうものか。」
「何の意図だ。答えろ。」
「――――お前には一番の誕生日プレゼントになるかと思った。ナナは必ずここに来て――――、お前に届かない歌を贈って1人、お前の誕生日を祝う。」
なんでそんなことをミケが知っているのかは置いておいて―――――、あの歌がそうだったなら、それは確かに受け取ったが、おかげで色々こっちは更に複雑だ。
なんとも言えない表情で黙ると、ミケが匂いで察したのか小さく謝った。
「――――すまない。余計な世話だったか。」
「――――いや。」
ミケなりの気遣いと間違いない善意だ。
俺の誕生日を祝おうという奴が、年々増えていくことに不思議な感情を抱く。
責める気にはなれなかった。