第94章 寒慄
星を見上げながら儀式のようにその時を待つ。
日付が変われば、クリスマスだ。
翼の日が12月24日に固定されたことが、なんだか皮肉だけれど――――、こうして恒例のようにみんなと楽しい時間を過ごした後、この歌を風に乗せて歌えることは私にとって嬉しいことかもしれない。
日が変わって、その歌を歌う。
誰にも届かない、ただ私の自己満足だ。
「――――Happy Birthday to you………。」
――――そうして歌ってみて、ハッとする。
私が本当に祝うべき相手の誕生日を、私は知らない。
「――――あとで聞いてみよう。」
エルヴィンも私の誕生日を知っているはずなのに、なんで自分の誕生日は教えてくれないのだろう。教えてくれたって、いいのに。と的外れに少し拗ねてみるけれど、これもまたハッとした。
「――――こんな気持ちだったのかな。」
私はリヴァイさんの誕生日を知っていたのに、リヴァイさんは私が自分から誕生日を言わなかったことに結構拗ねていたっけ。
懐かしい。こんな気持ちだったのか。
言わなくて、悪かったなと今さら少し心の中で謝ってみる。
「―――――ああそうだ、紅茶、いつ渡そう……。」
誕生日プレゼントとして贈るのはおかしい。
ただの兵士長と兵士だから……、ただいつもの御礼にと言って、誕生日が終わってから渡そう。
まるで今しがた知った衝撃の内容を考えることを拒否するように、別のことをぐるぐると考えていると、どうやってもやはりあの子の顔が浮かぶ。
「――――アリシア、可愛いもんね………。」
ぽつりと零した言葉は本心じゃない。
自分を嫌いになりたくなくて取り繕った言葉だ。
本当はもっともっと嫌な事を考えている。
狡い事を考えている。
決して言ってはいけない事を、考えている。
全部は言わない、けれど気持ちの糸口だけは――――吐き出してもいいかな。