第94章 寒慄
「違う!!!私は――――――。」
「何が違うの?“純粋に好きなだけ?” “兵士長として尊敬しているだけ?”――――下らない。そうやって表面の名前ばかり綺麗に取り繕う意味がある?結局男と女の好意の辿り着く先なんて、交わる行為じゃない。――――だからあの女も許せない。」
「――――………。」
あの女は、間違いなく――――私のことだ。
「兵長を癒すことも、性欲を慰めることもせず綺麗なふりをして―――――、心だけ縛り付けてるあいつから、私は絶対に兵長を奪い取ってやる。」
「――――ナナさんと兵長には、他の人間が立ち入れないようなものがあるって、私は思ってる。だから―――――、だから私は違う形で兵長の側に―――――!」
「そう?じゃぁいれば??“違う形で側に”いればいいじゃない。触れもせず、キスもせず、体温も感じないで――――その役目は私が貰うから。だからあなたに何の文句も言われる筋合いはない。」
「………っ…………!」
「――――どいつもこいつも無垢なフリするのやめてよ。本当は抱かれたいくせに。イラつく。」
ペトラが何も言えなくなったようだった。
私もまた―――――色んな思考がぐるぐるとかき混ぜられて、ただぼんやりとその話を聞いていた。
「――――ああそれに、言っとくけど『抱いてくれないなら死ぬ』の前を端折ってしまったんだけど。」
「え………?」
「『もう一度』が、つくから。」
「――――え………?」
「――――リヴァイ兵長すっごく上手くて。忘れられないからもう一度抱いてくれなきゃ死ぬって脅した。そもそもあんたは私と同じスタートラインにも立ってない。残念ね。」
「―――――………。」
「―――――良かったなぁ。意外と甘い声で囁いてくれるの。“アリシア、可愛いな”って。」
胸の奥に鉛を落とされたような――――――そこから気持ちが、精神が一緒に重みで引きずり落とされていくみたいだ。
私はどうしても聞いていられなくて、これ以上乱されたくなくて、その場を後にして屋上に逃げた。