第94章 寒慄
「――――お前の居場所はここにあるぞ。」
「――――………。」
「――――親しかった者を次々亡くして、更には離団していて兵団が変化する様子も見られなければさぞかし疎外感も感じるだろうが―――――、この盛況さは、ナナが昨年頑張ったものが礎になっているんだ。すごいことだ。」
「――――ミケさんは、人たらしですね……。」
「うん?なんだそれは。」
ミケさんは初耳だという顔を私に向けた。
「人の心の一番奥底を理解して、それを救う言葉をかけてくれる。ミケさんの隊に所属したいと希望する兵士が多いことが、物凄くよくわかります。―――――ありがとうございます、ミケさん。」
「――――ミケ、またナナを独り占め?」
「ナナバさん。」
「――――そうだ、久しぶりの帰団だからな、もったいないだろう。」
「ははっ!確かに。」
ナナバさんは明るく笑って、そしてまたミケさんとは反対側の私の隣に座った。
「ナナ、酒は?」
「いえ、このあとも団長の執務を手伝おうと思っているので――――、お気持ちだけ頂きます。」
「そっか、働くねぇ。無理しなさんな?」
「はい!」
それから少し他愛もない話をしていると、ふいにミケさんがリヴァイ兵士長の話を持ち出した。
「――――最近リヴァイがある新兵を警戒しているな。」
「――――ああ、アリシアだろ?私も思ってた。ナナ絡み?」
「……だと思います。すでに一波乱ありました。」
「――――リヴァイは昔から女同士を揉めさせる天才だからな。あんなに不愛想でチビで潔癖なのに。兵士として憧れるのはわかるけど、男として好きになる子達が私にはわかんないね!」
「潔癖は関係ないんじゃないか?」
「いやなんとなく。――――リヴァイを巡って争うのは決まって―――――どこか不安定な女の子が多い気がして。そういうのを惹きつけちゃうのかな、あいつは。」
ミケさんとナナバさんだからできる会話に少しだけ笑みがこぼれてしまう。ふとその話題の彼を探すと、もう食堂にはいなかった。
時計を見ると―――――もう、日が変わりそうだ。
声を発そうとした時に、先に切り出したのはミケさんだった。