第94章 寒慄
あの宝石商のご主人は、やはり来てくださった。
そして、王都ではない地域の商家としては驚くほどの額を投資してくれたと、モブリットさんから聞いた。調査兵団に、リヴァイ兵士長に希望を見出したのだろう。それがとても誇らしい。
エルヴィン団長の計らいで、去年よりも多くの収益を上げた翼の日の慰労打ち上げは盛大に行われた。
食堂でいつになく騒ぐみんな。
今日だけは、多少の羽目を外しても許される雰囲気だ。幹部のみなさんも同席して、それは賑やかで楽しい会だ。
主で動いたサッシュさんがどこからも引っ張りだこで、色んな人達と労いの盃を交わす。私は一人遠巻きに、それを眺めていた。
私がいなくても、来年からもきっとうまくやって行ける。そう思うと嬉しくて、なのにどこか寂しいのは私の我儘かな。
――――ねぇリンファ、といつも横に目くばせをして笑う彼女が隣にはいなくて、誰もいない空席を見つめて、顔を隠すように両手で持ったカップを口に付けた。
「――――ナナ。」
そんな私の顔をひょこっと覗き込んできたのは、ミケさんだ。さっきまでリヴァイ兵士長と何かを話していたと思ったけれど、いつの間にかこっちに来てくれていた。
「どうした。」
「どうも、しませんよ。」
「寂しそうな匂いがする。」
「――――ミケさんには、なにも隠せないですね。」
敵わないなぁと小さく笑うと、少しだけ笑んで私のぽっかりと空いた隣に座ってくれた。
「――――ミケさんのファンも多いでしょう?市民の方々と交流できましたか?」
「―――ああ、大抵は匂いを嗅ごうとすると逃げて行くがな。」
「あはは、初対面でそれはびっくりするかもです。」
少しの会話をして、間があく。
ミケさんとの無言の間は全く違和感がなくて、居心地がいい。無理に話そうとしなくていいし、話そうともされないから。ただその場の空気を感じながら、自分の中で対話をしたり――――相手の考えている事を想像したり、している。
そんな中でぽつりとミケさんが口を開いた。