第92章 一時帰団
「はは、そうですね。その意味は旦那から直接聞くのがいい。」
店主は小さく嬉しそうに笑った。
「それで本題だが。」
「はいはい!今度はいよいよ結婚指輪ですか?!いいのがありますよ!この前の――――」
「えっ。」
「落ち着け、今日は買い物に来たわけじゃねぇ。12月に行う催しに来ないかという誘いだ。」
「…………!」
そういうことか、だから翼の日の前に行きたいと――――抜け目なく商家を誘致しようとするところが、リヴァイ兵士長らしい。
「ウォール・マリアが陥落してから、宝石商も資材入手が随分と難航してるだろう?鉱石発掘場所がいくつも巨人まみれになって手も足も出せなくなったからな。」
「―――そうなんですよ。仕入れ値が高騰するばかりで、庶民の所得は下がる一方……一番最初に不要になるのは、贅沢品や装飾品です。王都ならまだしも、こんな平民の街の宝石商はもう息も絶え絶えです。」
陽気に振る舞っていた店主の顔が初めて陰った。みんな生きるのに必死だ。王都以外の民はほぼ等しく、明日の命さえ保証されていない。
「俺達に投資しろ。ウォール・マリアを取り返してやる。」
「――――なんですって?投資……?」
「今俺達調査兵団の株は右肩上がりだ。この状況をひっくり返せるのは、ウォール・マリアの奪還しかありえねぇからな。多くの商家や貴族が投資をしている。ここで投資することで―――奪還後の資源配分に口を出せる。有利に働くだろう。」
「―――……なるほど……。」
「もちろん無理にとは言わない。だが嘆くだけでは状況は変わらない。何を信じて動くのかはよく考えろ。12月24日の翼の日の催しに来れば、どれ程の商家が俺達に張ってるか見当がつく。」
――――横で聞いているだけでもこの人が率いる兵団に――――いや、この人に賭けてみたいと、私ならそう思う。同じように店主も何かに気づかされたような、少しの希望が見えた表情でリヴァイ兵士長を見つめた。