第92章 一時帰団
リヴァイ兵士長は少ない言葉数でまんまとその宝石商を翼の日に勧誘してしまった。この店主は、きっと来てくれるだろう。
「用事は済んだ。帰るぞナナ。」
「は、はい!」
話を終えてリヴァイ兵士長はさっさと店の外に出て行ってしまった。私はとりあえずもう一度感謝を込めて店主に頭を下げると、なんとも優しい表情で店主が口を開いた。
「あの人は、魅力的な人ですね。」
「―――はい!」
誤解されがちなリヴァイ兵士長を褒められることが嬉しくて、満面の笑みで返事をする。
「そしてあなたもまた―――とても魅力的だ。とんでもなく強いのに、闇を宿した目をしたあの人にあなたがいてくれて、私は嬉しさすら感じるんですよ。」
「―――……。」
その言葉に、ズキ、と胸が痛む。
「その薬指にあの人と揃いで指輪を通す日が来たら―――今度こそこの店で一番良いものをご紹介します。ぜひお越し下さいね。」
「―――そう、ですね……。」
曖昧な笑みを向けて目を伏せた。
その約束を私はできない。彼じゃない人と生きることを選んだから。
「では、また。」
会釈をして店を出ると、腕を組んで私を待っているリヴァイ兵士長と目が合った。
「余計な事を言われたかもしれねぇが、気にするな。」
「なにも、言われてないですよ?」
にこ、と嘘の笑顔を見せる。
「――――そういえば……ブラックダイヤモンドの意味って――――。」
「――――さぁな。忘れた。」
ふいっと顔を背けて遠くに目線をやってしまった。
それが正しい。
例え情熱的な愛の言葉だったとしても、それに私は応えられない。それをリヴァイ兵士長も私も、わかっていたから。
「――――ですよね。聞いてごめんなさい。」
「いや……。帰るぞ。」
「はい。」
帰り道はどちらも何も言葉を紡がず、ただ黙って馬を走らせた。
前を走るリヴァイ兵士長の姿を見つめる。
店主との些細な約束をちゃんと守るところも、
私に小さく気を使ってくれるところも、
―――何より手の届くもの全てを守ろうとするところも―――あなたらしい。
私はその背中にずっとずっとずっと、憧れ続ける。
例え私だけのヒーローじゃなくても。