第1章 出会
「苦しむ人たちの力になりたいの。……それに……お父様に……私は嫌われているけど………。それでも、優秀な医者になれば、病院を継がせても安心だと、思ってもらえるかもしれない……。」
自虐気味に俯いた私に、ワーナーさんは焦った様子で話し始めた。
「病院……?継ぐ……?!ナナ……君はまさか………君の姓は……」
「??そうだね、フルネームで言ってなかった。私の名は、ナナ・オーウェンズ。」
ワーナーさんはガタッと椅子から立ち上がると、かけてあった黒いフードのついたマントを私にかぶせた。
「オーウェンズ家の令嬢が……!こんなところに来てはいけない!!」
「え?!」
「顔を隠して!今すぐここから立ち去るんだ!!そしてもう来てはいけない!!」
「い………いやだ!!なぜ……?!」
動揺する私に、ワーナーさんは膝を曲げ、目線を合わせて言った。
「いいか、ナナ。ここは無法地帯の地下街だ。君があのオーウェンズ家の令嬢だとばれたら、たちまち誘拐されてしまうだろう。それに……外の世界の話をするのも、この世界では罪とされる。もし君が外の世界に焦がれているなんてバレたら……君も、君の家も全て終わりだぞ。もうここに来るんじゃない。地上へ帰れ。」
「………いや!!ここは私にとって……居場所なの……!外の世界は私の夢になった!お願い……これ以上、私から居場所と希望を取り上げないで………!」
初めて会った時に、涙を堪えていた私がみっともなく泣き縋ったためか、ワーナーさんはそれ以上なにも言わなかった。
ただ三つの約束を守るよう言われた。
一つ目は、ここに来るのは月に一度だけ。最後の木曜日の早朝。地下街の人間が目覚める前に帰ること。
二つ目は、ここでの話は、絶対に口外しないこと。もしワーナーさんが捕まったとしても、無関係であり、他人だと言い切ること。
三つ目は、本名を名乗らないこと。私はナナ・オーウェンズという名を伏せて、ワーナーさんの元へ通うようになった。