第92章 一時帰団
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アリシアが走り去ってから、転がった荷物を取りに階段を降りて、壊れたものがないか確認する。バッグの中から、紅茶の缶を取り出した。
「―――――良かった、凹んでない。」
リヴァイ兵士長の一番好きな紅茶。きっともうないだろうから、買って来た。きっとまた悪くない心がけだと言って、素直にありがとうとは言わずに、でも受け取ってくれるんだろう。
リヴァイ兵士長に想いをよせる女性兵士は多い。
それは前からだったけれど、あの迫力と威圧感と立場とで、なかなか想いを口に出したり伝える子は少ない。そんな中で行動や態度に出せる子は度胸があって、その想いも強いことが多い。
私は紅茶の缶を手に持ったまま、アリシアのことを思い返す。
“いつもいつもいつも”そう言っていた。アリシアは新兵で、彼女が入団してから私はまもなく離団した。だからきっと――――――、アリシアの入団前にどこかで会っているんだ。
「―――――勧誘行脚の時にいたのか―――――、それとも……もっと前……?」
勧誘行脚の時に一言二言でも話していたら、私はきっと覚えている。
でも記憶にない。
もっと以前の記憶を呼び起こしてみるけれど、なかなか思い出せない。
「……ううん、今はそれどころじゃないや。」
翼の日の最終準備と、エミリーがいなくなった後の医療班のことも方向性をエルヴィン団長と考えなければならない。
私が育てた初期の医療班は――――――、10名中、エミリーを含めてもう3人しか、生存していない。
「――――駄目だ、弱気になっちゃ。せっかく、帰ってきたのに。」
自らの頬をぺチペチと叩いて、バッグを持って立ち上がる。背筋をピンと伸ばして、今度こそ団長室へ向かった。