第92章 一時帰団
「――――消えろっっ!!!!」
「―――――!!」
私の襟ぐりを掴みあげて、彼女は叫んだ。
「言ってやろうか、あんたが中央憲兵に――――――。」
――――秘密とは中央憲兵のこと。聞き出せて良かった。
どこまで知っているかはわからないけど、今は感付かれそうな行動もとっていないし、物証も何一つない。焦るな。なにも不利なことはない。動揺や焦燥を表に出してしまえば負けだ。とことん余裕で、そんな秘密を暴かれたところで痛くもかゆくもない、という顔を作って見せる。そういう駆け引きも、エルヴィン団長から何度も見て学んだ。
「中央憲兵に、なに?」
「――――――!!!」
「言えないの?本当は知らないんでしょう?秘密なんて。だってそんなもの、私にはないもの。」
あっけらかんと答えて見せる。
「――――いつもいつもいつも、とことん人をバカに―――――、惨めにしやがって……!」
「―――――………。」
彼女の言う“いつも”が何を指しているのかはわからなかった。
「王都に帰って、二度と戻って来るな!!!」
「――――私にはあなたにそこまで言われるような事をした記憶がない。具体的に教えて欲しいな、アリシア。」
そう語り掛けると、一瞬驚いたように目を見開いてアリシアは制止した。そして深く俯いた。
「――――言うわけないでしょ。馬鹿じゃないの。」
「そう。それは残念。」
アリシアは怒りの表情を湛えたまま、背中を向けて走り去った。