第91章 懺悔
「―――――両親の人生を滅茶苦茶にしたんだ、俺は。」
ぼそっと零したその言葉は、今まで一度も口にしなかった言葉だ。その瞬間、ナナが立ち上がってその胸に強く俺を抱き締めた。
「――――ナナ、苦しいよ。離し……。」
「やだ。」
「――――………。」
「苦しいのは抱き締められているからじゃない。ずっと――――ずっとずっとずっと、エルヴィンが自分を責め続けてるから苦しいんでしょう?」
「――――…………。」
「前にも言ったじゃない。泣いていいって。―――――ねぇエルヴィン。分けてよ、私に。」
そう言ってナナは少し腕を解いて、この上なく愛おしいと、なんとか力になりたいんだと、辛そうな顔で涙を浮かべながら俺を見下ろした。
「――――俺は父の命も夢も奪って――――――、母から父を奪った。」
「違う。それはこの世界がおかしいの。あなたが奪ったんじゃない。」
小さく懺悔をすると、ナナは両手で俺の両頬を優しく包んで真っすぐにその目を見て、俺の言葉を優しく否定した。
「――――俺は母を騙して――――傷付け続けてる。」
「違う。エルヴィンの優しい嘘は、お母さまを優しく包んでる。じゃないと、あんなに幸せそうにしてるはずがない。」
「――――だから俺は愛だとか恋だとか幸せだとか、求めてはいけないと思ってた。」
「お父さまとお母さまの一番の望みは、エルヴィンが愛を知って――――そう、お二人みたいに、愛し合う人と幸せになることだよ、きっと。」
彼女の瞳は不思議だ。
まるで包み込まれるように、心の蟠りがほどけていく。