第91章 懺悔
「――――母は父のことをすごく愛していてね。」
「うん……。」
「父が死んでから、少しずつ少しずつ壊れていったんだ。」
「…………。」
「最初は今ほど俺を父だと思い込むことはなかったんだが―――――、調査兵団に入ってから、なかなか会いに行かなくなってしまって――――――15年くらい前かな、久しぶりに会った母さんは、俺を父だと勘違いした。」
その時の衝撃は今も忘れられない。
それまでの母は、ずっと
“なぜアランが死ななければならなかった”
“返して”
“人殺し”
などとひたすら叫びながら繰り返して、手も付けられずに隔離の病棟にまで入れられたことがある。
その言葉はまるで俺に浴びせられているようで―――――、何より俺のことは一言も言わなくて、もう母の中から俺の存在は消えてしまったんだと思っていた。
だから俺は、逃げたんだ。
母に会わなくなった。
そんな中、訓練兵時代によく飲み交わした同期のナイルの一言で、久しぶりに母に会う決意をして―――――数年ぶりに母の元を訪れた。
久しぶりに会った母は、美しかった金髪は全て真っ白になっていて、虚ろな目と痩せこけた頬をして、俺を朦朧とした目で見た。
だが、次の瞬間、目に生気が戻って涙を流した。
『――――アラン………!』
そう言って駆け寄って俺に抱きつく母を、恐る恐る抱き締め返した。
医師の勧めもあってそのまま俺は父の代わりに母さんを見舞うと、母はみるみる落ち着きを取り戻した。
――――どれほど母が父を愛していたのかを痛感したのと同時に――――――、父が王政側に殺される原因を作ってしまった自分がどれほど罪深いかを思い知った。