第91章 懺悔
花束を抱えてやって来たのは、大きな病院だ。
「――――入院、されてるの……?」
「ああ。」
「そうなんだ………。」
どういった顔をすればいいか少し戸惑いながら、エルヴィンの服の裾を少しつまんだ。するとエルヴィンは私の手から花束をとって、軽々と片腕に抱き、空いた右手で私の左手を包んでくれた。
「――――行こうか。」
「………うん。」
どこが悪いのか、どれくらい悪いのか。
花束を買った時とは違う緊張感が高まる。
その一室の扉の前でエルヴィンが立ち止まると、ほんの一瞬、扉をノックすることを躊躇うような仕草と表情を見せた。
――――珍しく、エルヴィンが少し怖がってる。
――――私がついてるよと言いたくなって繋いだその手に小さく力を込めると、それに気付いたエルヴィンが私を見た。その目を見つめると、張り詰めていた糸を緩ませたような小さな笑みを見せてくれた。
今度こそエルヴィンは躊躇わず扉を鳴らして、部屋の中にいるお母さんに声をかけた。
「――――マリア。僕だ。」
「――――………。」
その呼び方と、エルヴィンの一人称に違和感を覚えつつ、開かれた扉の中に目をやると――――窓辺から光が射すベッドに座って外を眺める、中年女性の姿があった。
肩までの長さのその髪は真っ白で、ゆるやかなウェーブがかかっている。
その女性がこちらに気付いて、振り返る。
蒼い目は、お母さん譲りなんだ。
見惚れるほど美しい蒼は、どこか異世界の住人のようにぼんやりと、どこか違う次元でも見ているような目だった。