第90章 心頼
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―――――珍しく、ナナから手紙が来た。
何もなくても手紙をくれたら嬉しいと離団前に言ってみたものの――――、業務連絡以外の手紙を全く寄越さない、俺の愛しい人は割と淡泊だ。
だがそれがまた彼女らしくていい。
きっとまた業務連絡なのだろう。そう思いながら封を開けると、踊るような文字でボルツマン氏と良い展開を作っていけそうだと書いてあった。
その喜々として美しい文字と、興奮冷めやらぬ気持ちが垣間見える文章に顔が綻ぶ。君がどんな顔をして書いたのか、どう俺を想って書いたのかが手に取るように想像できる。
「―――頑張っているんだな、ナナ。」
文末、随分と余白を空けてから小さく書かれた“愛してる”の文字に、思わずふっと笑みを零した。
そんな温かな心を一気に冷ますような、いつもの不機嫌な声とドアが鳴る音がした。
「おいエルヴィン、俺だ。」
「ああ、どうぞ。」
さっと手紙を胸ポケットにしまうと、リヴァイが入ってきた。
「どうした?」
「――――一応耳に入れておこう。ナナに危険が及ぶかもしれねぇからな。」
「………なんだ?」
「――――新兵のアリシア・ホグウィードって女に気を付けとけ。」
いつもなら俺の目を見て言うのに、この時のリヴァイは目を合わせなかった。
その仕草でわかる。多少の後ろめたさがあるんだろう。
ということは、リヴァイにまつわることでナナを逆恨みしている女がいるという仮説になる。
「………痴情のもつれか?」
「あ?」
「――――いつか、お前の執務室から乱れた服を直しながら出て行った彼女だろう?」
「……ちっ、小せぇことまで覚え過ぎだろお前は………。」
「手は出してないんだろう?」
「―――――出してねぇよ。ただ、俺に異常な執着を見せてる。―――――もしかしたら、俺に対してだけでなく、ナナにもなにかしらの執着があるのかもな。」