第90章 心頼
別にいいの、兵長はもともとナナさんと恋人関係にあったし、今は別れたとはいえ、誰のものでもないままい続けるわけではないということも、わかってる。
アリシアは可愛くて女性としての魅力もあって―――――、そういう関係になっているのなら、仕方ないと思いたい。
思いたいのに。
嫌だ。
あんな子に触れないで欲しい。
もっと私を見て欲しい。
ナナさんとの関係性をずっと見て来たから、性欲の発散とかだけじゃなく、お互いの心にまで深く染み入って影響し合って、高め合う――――――そんな関係を築ける女性になれば、兵長も振り向いてくれるんじゃないかと思って頑張ってきた。
いつだって強く、いつか兵長の横に並べるように訓練も自主練習も欠かさずにやってきた。
兵士として認めて貰えるように力をつけても――――――結局得られるものは、何もないの?
ただ身体を開けばその心に触れられるような、そんな簡単なものなの?
――――そんな兵長なら、見損なってしまう。
私の心模様と同期するように、ぽつぽつと雨が降り出した。
少しの雨宿りくらいする時間はあるはずなのに、私は走り続けた。
心の中の不安と、嫌なことを考える自分を洗い流そうとでも思ったのだろうか。
「――――嫌だ、嫌………。」
あの日から兵長の目を見られない。
あからさまに嫌な態度をとってしまいそうで。
でもきっとそれに気付いてる。でも―――――何も、言ってこない。
どうでもいいのかな、私のことは。
そもそも女性として見てもらえていないということか。
ほんの少し、涙が込み上げてくる。
「泣かない……、こんなことで泣かない………!泣いてる暇があるなら、強くなれるように努力、するだけ………!」
馬の蹄の音にかき消されるのをいいことに、自分に向かって暗示のように何度も呟いた。