第90章 心頼
――――――――――――――――――
その日は外出許可を得て、ウォール・ローゼの北西部にある村に来ていた。
――――イルゼの遺品を届けるために。
本当は同室のアリシアに指示されたはずだったけど、アリシアが拒否したために私が来ている。
イルゼは同期だし、それなりに話すこともあったから―――――私が行くことに違和感はない。
でも気が重いのは、なんとなく私がイルゼから――――――好かれていたわけではないんだろうと思っているから。私に届けられて、イルゼは嬉しいのかなと思うと少し心が曇る。
イルゼのご両親に遺品を届けた。
ご両親はすぐに泣き崩れたりはしなかった。ただただ信じられない、受け入れられないといった顔で呆然と遺品を受け取った。
彼女は亡骸さえも見つかっていないから―――――部屋に遺されていた本や日用品のみのお返しになってしまって、“イルゼ”本人を感じられるものが何もないから致し方ないと思う。
同じ壁外調査に出ていた私だって、未だに信じられないくらいだ。
どんよりとした気持ちのまま、馬を駆って帰路につく。
道中私の頭の中を支配していたのは、あの日の光景―――――。
アリシアと兵長が同じ部屋にいて、私が尋ねた時に“用は済んだ”と兵長が出て行ったあの日。