第90章 心頼
「――――その代わり、リヴァイ兵長になんの情報を売ったのか―――――私にも教えて?」
私の言葉に、その男は一瞬躊躇した。
信頼が一番の情報屋だ。
一つ不用意に情報を漏らすだけで、今後の商売に大きく関わることもある。だけどそんな葛藤、私が迫れば踏みつけてしまえるはずだ。
「――――ねぇ、あなたの望む通りにしていいから。お願い。」
「………これを断るのは、男じゃねぇよな………!」
ほら。簡単すぎて話にならない。
「――――そうだな、ここらに連れ込み宿なんてあったか―――――。」
「ここでいいよ。」
「は?」
私は男の手を引いて、建物と建物の間の狭く暗い路地に誘い込んだ。
―――――宿代を払う価値も見出してもらえなかった初期の頃は、決まってこんな所でヤってた。
だからどうってことない。
路地の奥に男を連れ出し、その手を胸に誘導して興奮を煽る。跪いてカチャカチャと男のベルトを外しながら、上目づかいで約束をとりつける。
「――――でも、情報は――――挿れる前に、話してね?」
「はは………慣れてんな、商売女か?お前。」
「ううん、誇り高き、心臓を捧げた兵士。」
「バカ言うなよ。どこがだ。」
男が皮肉な笑みを見せた。
「――――ほら、話して。」
「――――ああ、仕方ねぇ………。調査兵団の団長補佐のナナって、いるだろ?今離団して王都に戻っているその女の動向を逐一報告している。特に中央憲兵から目をつけられていて――――。」
――――ほらみろ。やっぱりナナさんのことだった。
「うん。」
「ナナが実は―――――――。」
――――ちょろいものだ。
へえ、そうなんだ……ナナさんが中央憲兵に………。
身体を揺さぶられる間、私の思考はここにあらずだった。
手に入れた情報をどうしてやろうか、どうすればナナさんからリヴァイ兵長を奪い取れるのか――――――、どうすればあの綺麗な女を貶められるのかを、ひたすら考えていた。