第90章 心頼
「ひとつ聞いてみたいんです。あなたにとって、父との日々は―――――オーエウェンズとは、何なのかを。」
「―――――……私にとってリカルドは相棒だ。この病院を繁栄させ続けることに全てを懸けた――――家族も捨てる覚悟で。」
ああやはりそうだ。
エルヴィンが言った。“まずは相手を知ることから始まる”と。
私はギード・ボルツマンという人物を徹底的に調べていた。
過去どれほどの熱意で医師になったのか、そして父との出会いと―――――これまでの経営の軌跡と、そして……散り散りになった彼の家族のことも。
彼にとってオーウェンズは、生きる意味なんだ。
オーウェンズに生まれた私たちが簡単に捨てたものを、彼は生きる意味として大事に大事に育ててきた。
だから私たちも、誠意を持って相対する。
きっとそれが―――――父の望む道だと信じて。
「――――ありがとうございます、ボルツマンさん。」
母は深く深く頭を下げた。
「…………。」
彼はただそれを、うつむき加減のままちら、と見て―――――また目を伏せた。
「オーウェンズを想ってくださるあなたなら、父はきっと安心してお任せできるはずです。」
「――――それで、大変な部分は私に押し付けて―――――自分たちの手に収まる部分だけを切り離して返してくれ、という魂胆か?」
「――――………。」
母が、ゆっくりと頭を上げる。
肯定も否定もしないまま、彼を見つめた。私もまた、ボルツマンさんをしっかりと見つめた。
「そうです。」
「――――は。潔いほどの身勝手さだな。」
ボルツマンさんは口の端を引き上げて、笑った。
「――――父に甘やかされて育った、お嬢様なもので。」
私が悪戯に笑んで見せると、一瞬目を丸くしてからボルツマンさんはふん、と鼻を鳴らして呆れたという顔を見せた。