第90章 心頼
「――――オーウェンズは代々、血族経営だぞ。そんなことをリカルドが良しとするはずないだろう。ロイに継がせることがリカルドの望みだろう。だがロイだけでこの現状を支えられないのは想像に容易い。彼は精神が未熟すぎる。だからロイの力でもオーウェンズを保てるようにナナ、君が――――――。」
「公爵家に嫁いで、各院の頭を押さえろ、と?」
「――――ああそうだ。」
あくまでも彼は、オーウェンズのこれまでのやり方でこれからも続けていくことを考えている。
――――そこまでこの家の事を考えてくれる理由に、私は興味があった。
「――――父は――――、この家を守れなくてもいいと、言いました。」
「――――なんだと?」
「オーウェンズ家が無くなったとしても、私たち家族の血が、生きた証がなくなるわけではないから、と。」
「―――――………リカルドが………?」
「はい。」
彼は記憶の中からかつての父――――リカルド・オーウェンズのことを回想しているようだった。彼の記憶の中では、そんなことを言う父なんて想像できなかったのかもしれない。
そしてほんの少しの憤りを含めたその複雑な表情から、こう仮説を立てた。
何よりオーウェンズを守るために―――――この人も多大な犠牲を払って、がむしゃらに戦友と生きてきたとしたら。
その戦友が最後の最後に共に守って来たものを捨てて、家族との愛に帰巣したとしたら―――――それは、どんな思いだろう。
良かったな、と安堵するのか。
それとも―――――裏切ったな、とでも思うのか。
―――――きっとその、両方だ。
「――――父が私たちに無理をしなくていいと言ったのは、あなたがいたからだと、そう思うんです。」
「…………。」