第90章 心頼
エルヴィンからヒントをもらってから、私は考えた。
そして――――ようやく、ボルツマンさんと母と私の三人で話をする機会を作る事ができた。ボルツマンさんの御用達のレストランに招かれて―――――三人で豪勢な食卓を囲む。
「――――ここはリカルドとよく来たな………。」
ボルツマンさんはどこか懐かしそうに目を細めながら、白ワインのグラスを傾けた。
「――――それで、ナナ。話とは何かな。」
「――――あなたに、折り入ってご相談が。」
「なかなかいい目をしている。綺麗事ばかりで正面突破することしか考えていなかった君を、何が変えたのだろうな?思い知ったか、綺麗事ばかりでは守りたいものも守れないということを。」
「はい、そういうやり方で色んなものを守ってきた人が、私の背中を押してくれました。」
少し笑んで伝えると、ボルツマンさんは私をじっと見つめた後、目を逸らした。
「リカルドもそうやって、オーウェンズを守ってきた。」
「………はい。」
「だが、君たちはそれを知ろうともせず……彼を孤独の中に放り出して去った。」
「…………。」
「――――なにも、否定致しません。その通りです。」
母は静かに答えた。
ボルツマンさんは母に目をやったが、その目は穏やかではなかった。
「――――それで、相談とは?」
「単刀直入に申し上げます。今のこのオーウェンズ病院を、あなたに引き継いで頂きたいのです。」
「―――――なに?」
思いもよらない話だという、驚きを隠せない表情をした。
白髪交じりのグレーの前髪を上げて、いかにも上流階級のロマンスグレーといった風貌だ。毎日違う高級スーツを身にまとっているのに、その胸には必ずオーウェンズのエンブレムを付けている。
表には出さないが、彼がオーウェンズを大切に思ていることは―――――少なからず、分かった。
もしかしたら、私たちよりも。
父と一緒に守ってきたものを、ひっかきまわす私たちに良い想いを抱くわけがない。
それなら、その想いに訴えかけてみよう。
力を貸して欲しいと、ちゃんと言おう。