第89章 溺愛 ※
「――――あの、今日は……っ…。」
「――――ん?」
「………その……出血が……あるから……ダメなの………ごめん、なさい………。」
少し振り向いて、申し訳なくてエルヴィンの目を見られないまま俯いてもごもごと伝えると、エルヴィンは目を開いて驚いたあとにふっと眉を下げて笑った。
「なんで謝るんだ。君の体の、大事なことだ。――――身体は辛くないのか?」
慈しむように、私の肩に顎を乗せて、身体をぎゅっと抱きしめてくれた。
「――――……大丈夫。」
「君を抱くのは、沢山ある愛情表現のうちの一つに過ぎない。応じられないからと言って謝らなくていい。」
「――――うん。」
「じゃあ今日は好きな話をしよう。なんでもいい。お互いの好きなものや、外の世界の話、家族の話……これまでの話、これからの話。」
エルヴィンの言葉が嬉しい。
愛されていると実感できる。
私は撫でてくれるその大きな温かい手が心地よくて、身体を半分エルヴィンの方に向けて、その厚い胸に頬を寄せた。
エルヴィンは目を細めて私を見つめながら、私の頬に大きな手を添えた。
私もまたその手に自分の手を重ねて目を閉じる。
「――――どうした?」
「エルヴィンの、この手が好き。」
「…………。」
「この、蒼天のような澄んだ美しい目が好き。綺麗な金髪も―――――意地悪を言うこの唇も、凛々しい眉も。私に足りないもの、知らないことを沢山教えてくれるところも。あと――――。」
「ちょっ……と待てナナ、どうした?なにをそんなに………。」
エルヴィンがなぜか慌てて少し不安げな表情を見せた。
「??好きな話を、するって……言ったから。私の好きなエルヴィンの話を……してる。」
私が答えると、その言葉の意味を考えて受け取ったのか、とても可愛い笑顔でエルヴィンは笑った。