第89章 溺愛 ※
「あの人以外はそこまでの繋がりはないし――――、なんならそれぞれが虎視眈々と自分の地位を上げるためにお互いを蹴落とそうとしてる。まぁ、ボルツマンも含めてだけどね。」
ロイの言葉を聞いたエルヴィンはふむ、と小さく頷いてから、策士の笑みを見せた。
「―――私はそもそも部外者だから見当違いがあるかもしれないが―――――、まず“オーウェンズ一族”対“経営幹部”の構図をひっくり返したほうが良いかもしれない。変に血縁者を攻撃し貶める結束力ができてしまっていると見えるから、まずは経営幹部陣の中の綻びを見つけて、そこからバラバラにしていけないか?もし、ボルツマンという人物が最も権力・発言力を持っているのなら―――――まずはそれを引き込んで交渉が出来る状態にしないと、話が進まないだろう?」
「――――………それはそうかもしれない。姉さんの話を聞く限り、父さんがいる頃は、今ほどの結束力は無かったはずなのに――――、僕たちを貶める共通の目的で結束している。」
ロイが小さく頷いた。
「それに、オーウェンズとして皆さんが何を望むかにもよるが、今の状態から“削ぎ落としていく”ことで元に戻そうとするのが難しいのなら―――――、逆に、今の状態から“望む部分だけを切り出してオーウェンズとする”ということもできる。」
「…………!!」
エルヴィンの言葉に、驚いた。
そんな発想は私たちにまるでなかった。
得てきたものを返す、元に戻すということばかりに囚われていたけれど―――――、私たちが守りたいものをはっきりと示せていれば、お母様とロイと私の力だけで守って行ける部分だけを切り出して、取り返せばいい―――――。
「――――エルヴィン、あなたのおかげで――――……少し、違う方法を考えられそう……。」
「……そうね……確かに……。」
「うん、まだ諦めるのは早い。まず僕たちが何を守りたくて、何をオーウェンズとするのか、それを考えてみるのはいいかもしれない。」
暗雲立ち込めていた中に、エルヴィンは一筋の光をくれた。
エルヴィンはそれ以上何も言わず、ただ黙って紅茶をすすっていた。