第89章 溺愛 ※
「――――エルヴィンさん!ようこそ!」
エルヴィンが来るときのロイは、上機嫌だ。
本当に兄のように思っているんだろう、ただの少年に戻っているその姿は、見ていて微笑ましい。
約束通り翌月、エルヴィンは家に来てくれた。夕食をとったあと、現状と問題点などを持ち寄って話は始まった。
「――――思っていたより、もうオーウェンズ病院の中に私たち家族の力はないとわかった……。決定権がないのは重々分かっていたけど、提案も、訴えも、まるで聞いてもらえないまま……半年も時間を浪費してしまって………。」
「――――姉さんのせいじゃないでしょ。元はと言えば僕のせいだから……。僕が次々に経営拡大に繋がる合併の話をまとめていたころは、経営幹部は上辺は尻尾を振って媚びへつらっていたけどね。内心は―――――僕のことも信用していないし、厄介者だと思っていただろう。―――――父さんがいかに優れたバランス感覚で奴らの機嫌も損ねず、オーウェンズとしての威厳も損なわず維持していたのかが、今になってわかるね………。」
「………うん………。」
「――――私はほんの飾りとして長の椅子に座っているだけだけど―――――、彼らはそれも面白くないでしょうしね。ナナの頑張りを、私の存在が足を引っ張っているのもある……。」
ロイもお母様もしばらくの暗雲立ち込めた中で意気消沈しているようだった。その場は酷く空気が重くて、なにも思考がまとまらない。
「――――ナナ、一ついいかな?」
あまりに重苦しい空気の中、エルヴィンが口を開いた。
「うん、どうぞ。」
「――――相手は、経営幹部陣は、そんなにも横の繋がりが深いのか?オーウェンズ病院が初期のころから苦楽を共にして、家族のように信頼し合っている関係なのか?」
「――――どうだろう……どう思う?ロイ。」
「――――いや、元々父さんとずっと二人三脚でやってきていたのはあの人だけ――――。ギード・ボルツマン……あの中で最年長の人、いるでしょ。」
すぐにわかった。
唯一お父様を呼び捨てにしていた、私にライオネル家へ行くように進言した人だ。