第88章 自涜 ※
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――――もう少しだったのに。あと、少しだったのに……!
どいつもこいつもこぞって私の邪魔をする。
兵長が開けっぱなしにしていったドアから、ペトラさんが私の様子を伺うように覗き込んだ。
「―――――なんですか。」
「………えっ、あ……イルゼの……遺品整理、一緒に……やろうと、思って……。」
ほんの少し目を逸らしながら言うその様子も気に入らない。
私はわざとらしく、乱れた衣服を直しながら言った。
「―――――空気読めない人。」
「――――……ご、めん………。」
「私イルゼさんの遺品とか興味ないので。勝手にやってください。私お風呂に行くんで。」
「え、ちょっと………アリシア……!」
ペトラさんを残して、部屋を出た。
ペトラさんも嫌い。
強くて、優しくて、新兵の中では彼女に憧れる女性兵士も多い。純粋で、まっすぐで、汚れなんて知りませんといった顔がムカつく。
それに何より―――――リヴァイ兵長に纏わりついているのが、本当に邪魔だ。
しかもさらに腹立たしいのは、その兵長がペトラさんに向ける目も、他の兵士に対するそれと少し違うから。
「――――なんで、なんで私ばっかり何もないのよ……っ………!」
滲む涙は、苛立ちか、惨めだからか、悲しいのか、寂しいのか、辛いのか、なんなのかはわからなかった。