第88章 自涜 ※
怒りの感情で我を忘れたように口車に乗りかけた俺を鎮めたのは、扉が鳴った音と―――――その後に聞こえた、泣きそうに小さな声だ。
「………アリシア………いる………?」
毎日俺に話しかけてくる明るい声とはまるで違ったが――――その声は、確かにペトラだった。
「――――………ペトラ………。」
小さくペトラの名を呼ぶと、アリシアは顔にかかっていたシーツを取り払って、心底憎い、悔しいといった表情に顔をしかめた。
俺は起き上がってアリシアの腕を無理矢理引き寄せて立ち上がらせ、低く囁いた。
「――――二度とくだらねぇことをするな。俺を乱そうとするなら、本当に殺すぞ。」
「――――……嫌、絶対に嫌……!」
「…………。」
「大勢の中の一人になるくらいなら、あなたに殺されたほうが―――――マシ……!」
「――――くだらねぇ。」
そう言い残して扉を開けると、驚いた顔でペトラが俺を見た。
「えっ、なんで……兵長……?」
「――――俺の用事は済んだ。」
「――――え………。」
一瞬見たペトラの表情は、困惑と焦燥を含んだ、悲しみの表情だったように見えた。なんとも言えない不快な感情を抱えたまま、俺は部屋を去った。