第88章 自涜 ※
「――――本当に、ナナと話したいことがたくさんたくさんあるんだ………。」
ハンジさんが少し拗ねた様子で俯くと、エルヴィン団長はふっと笑って、折れた。
「分かったよ、今夜は水入らずでハンジとナナで過ごすといい。」
「ほんとに?!やったぁ、話がわかるねエルヴィン!じゃあナナ行こうか!」
ハンジさんは嬉しそうに、自室に向かって歩いていく。
私はエルヴィン団長のほうを振り返ると、とても柔らかい顔で私を見送ってくれる。
――――最初からハンジさんと私の時間を作ろうと思ってくれていたくせに、一度じゃれてみるなんて意地が悪い。けど、そんなやりとりも私にとっては大切で嬉しくて、小さな声で御礼を言った。
「――――ありがとう、エルヴィン。」
「今夜は譲るよ。その代わり、来月は覚悟しておくといい。」
「………!」
「おやすみ、ナナ。」
エルヴィンとこうなってからもう随分経つのに―――――、未だに彼の些細な言葉選びや仕草に翻弄されてしまう。ほんの少し赤らんだ頬を隠しながら、ハンジさんの後を追った。
ハンジさんのベッドに入れてもらう。狭いベッドに肩を並べて、寝がえりもうてそうにないほど窮屈なのに温かくて、心地いい。
ハンジさんはすごく楽しげに色んな話をしてくれた。
仲間のみんなの様子―――――モブリットさんがあまりに頼りになるから、副官にしたいとエルヴィン団長に頼み込んでいるという話や、ついにオルオがリヴァイ兵士長の真似をしてクラバットを巻き始めて爆笑した話、壁外調査の後に幹部4人で飲みに行って、とても楽しかった話―――――、どれを聞いても、ふっと笑みがこぼれるほど心が温まって、早くみんなに会いたいという気持ちが掻き立てられた。
てっきり巨人の話でもちきりになるのかと思っていたから意外だったけど―――――、おそらく、私のことを気遣ってくれているんだと、彼女の人柄から容易に想像できてまた、嬉しくなった。