第88章 自涜 ※
外で食事をして、ほんの少しお酒も飲んで楽しい時間を過ごした。ハンジさんといると、気持ちが明るくなる。
どこかエルヴィン団長も嬉しそうで、心地良い時間を大切に思い出として胸にしまってからエルヴィン団長とハンジさんの宿へ戻った。
「―――――いくらエルヴィンでも、それだけはダメだよ。私にだって譲れないものがあるんだ。」
ハンジさんがシリアスな表情で、エルヴィン団長を見上げた。
「――――そうか。珍しく意見が割れたな、ハンジ。」
「――――こんなことであなたと争いたくはなかったけど………仕方ないよね……!」
「――――そうだな、俺も譲れない。」
そしてエルヴィン団長もまた、ハンジさんを冷たい目で見下ろした。
「エルヴィン団長、ハンジさん………!やめてください……!嫌です、お二人が……争うのは………!」
「……そりゃそうだよね、私だって出来れば事を荒立てたくないよ………。」
「だったら……!」
ハンジさんが俯いて、何か言葉に詰まった。ぐっと、堪えていたものを吐き出すかのように声を荒げる。
「でもさぁ!!!ナナが泊まるのは私の部屋がいいってば!!!!」
「だから言ってるだろう、俺も譲れないと。」
「エルヴィンなんて毎月会ってるじゃん!!!私なんか半年ぶりだよ?!ちょっとくらいナナとの時間を私にくれてもいいでしょ!!」
「あの、本当に私はどっちでもいいので……もう、夜も遅いですし……。」
ハンジさんを諌めてみても、お酒が入っていることもあって全然落ち着いてくれない。
「それに……ああそれに!ミケからも言われてるんだって、『ナナの匂いを存分に嗅いでこい』って!それも果たさなきゃだし!」
「………なんの約束ですかそれは……。」
少し呆れつつ、私のいない間にも私の話をミケさんやハンジさんがしてくれていたんだと思うだけでとても嬉しかった。