第87章 私欲
「――――いや、血は争えない。ロイ氏だってそうだ。黒い噂が持ち切りだぞ。まぁ姉弟揃ってこの美貌だからな。手練手管で手に入れたものが手に余ってきたんだろう。自業自得じゃないか。」
握り締めた拳が震える。
半年経っても、ずっとこの調子だ。
何度立ち向かっても、何度説得を試みても、どれだけ誠意を持って各箇所の言い分を聞いて、折衷案を持って臨んでも―――――結局こうなるんだ。
そしてなぜ、私の家族がここまで侮辱されないといけないのか。
理解できない。
私たちは一生懸命生きてきた。
それを――――――!
「――――例えば君が、王政とより強いつながりを作れるのなら、話は変わってくると思うがね。」
怒りで叫びをぶちまけそうになった時、薄い笑みをこぼしながら、この中で最も発言権のありそうな雰囲気を持った初老の男性が口を開いた。
「どういう、ことですか………。」
「かつてリカルドから聞いたよ。あのライオネル公爵が、君との結婚を望んでいるそうじゃないか。」
「―――――……!」
「例えばロイがオーウェンズを継いで―――――ライオネル家に嫁いだ君がそれを支える。公爵家の支配力を以ってすれば、事業譲渡をしたところで怖いものもない。現に各院の元所有者はライオネル家に頭の上がらない家ばかりだ。公爵家と血縁関係が結べれば、オーウェンズに一層の拍がついてブランド価値が跳ねあがる。――――――やがて分離小規模化したとしても、繁栄し続けられる。我々は、各院を切り離すのならそのくらいの覚悟を求める。」
「――――………。」
「いい話だろう?君は公爵家に嫁ぐだけでいい。ロイも、飾りで座ってればいい。研究がしたいなら、そっちにかまけていても経営は我々で責任を持って遂行しようじゃないか。」
―――――一筋縄じゃいかないどころか。
もうこれは、オーウェンズではない。
父がいなくなって、全ては絶たれてしまって―――――もう、彼らの手中にあるんだ。
金儲けのための、手段なんだ。
そう、愕然とする。