第87章 私欲
「おいエルヴィン。」
「なんだ?」
「――――ナナはどうだ。」
「……家のことが大変そうではあるが、元気そうだ。私利私欲の権化のような貴族や富裕層の人間相手に必死にやりあってる。」
「――――そうか。」
「調査兵団で培う強さとはまた違う強さを手に入れて、帰ってくるだろう。」
俺が述べると、少し安心したようにまた、小さくグラスに口を付けた。
「なんだリヴァイ、ナナがいなくて寂しいか?」
「――――バカ言え。」
「ふふ。」
なんだかんだ言って、リヴァイがナナ以外の女性に手を出していないことも知っている。
以前リヴァイの執務室から女性兵士が出てきたように、アプローチをかけてくるのは兵団内にも何人もいるようだが、兵士長としてか―――――、はたまたまだナナを想ってか―――――以前のような軽率な行動はしていないようだ。
俺としてはいっそ、できれば兵団外の他の女性で発散してくれたほうが好都合なんだが。
「ハンジは寂しいと言っていたからな。今度の王都招集ではハンジを連れて行く。ナナも久しぶりに会いたいだろうしな。」
「えっ何か言った?!エルヴィン!!」
「声が大きい。次の王都招集の話だ。一緒に行くんだろう?」
「ああ!!行くよもちろん!!久々にナナに会えたら、目一杯抱きしめて、話も沢山するんだ!」
「匂いも存分に嗅いでおくといい。癒されるぞ。」
「いいねミケ!うん、そうする!」
「バカか。嗅ぐな。」
浮かれた会話が心地いい。
俺も酔っているのか。
それは酒にか、それともこの戦友たちとの心安らぐ時間にか。
心をもって接する関係性を作っていれば、他人と時間を共有することが“義務”や“仕事”ではなく、自分の“安らぎ”になるということもナナから教わった。
早くこの場に君も帰って来い。
みんな、首を長くして待っている。