第87章 私欲
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「だいたいさぁぁああ、ウォール・マリア奪還のために今必死でルート模索やら資材運んだりやらしてるけどさ?!本当に奪還する気あるの?!ねぇエルヴィン!!いつになったら壁塞げるのさ―――――!!」
「ハンジ落ち着け、飲み過ぎだぞ。」
「だって、こうやっている間も職や食料がない人たちが死んで……私たちの仲間も死んでいるのに……何も変わってない、何も良くなってない……。」
「クソメガネはうるせぇが、8割がた同意だな。どうやら王政の豚どもは、自身が肥え太り過ぎて、自分の糧になる餌を生み出す存在以外は見えてねぇらしいな。」
「…………確かにな。」
ハンジの愚痴に、リヴァイも淡々と酒を飲みながら同意する。口数少なくミケも同意している。
壁外調査で仲間を失えば失うほど、現実成し遂げたものとの重量差が重くのしかかり、その意義を見出せなくなるのも無理はない。
「――――確かなことは言えないが―――――、1年後にナナが戻り、さらにその半後にこの世界のなんらかの鍵を握るエレン・イェーガーとアルミン・アルレルトの2人が我々に更なる情報を齎した時に場を整えられていれば―――――何かを大きく動かせる可能性はある。今はその土台を作るべきだ。ウォール・マリア内の状況を把握し、兵士を育てて牙を研ぐ―――――、いつか現れる敵に備えて。」
俺の言葉に、3人が揃って小さく俯いた。そしてリヴァイが一言零した。
「――――果たしてその敵とやらが、鬼が出るか蛇が出るか―――――ってところだな。厄介すぎる敵じゃねぇことを祈る。」
「………ぜひ蛇の方であってほしいよ、ほんと。」
ハンジがストレートのウイスキーを煽る。
「………予測不能の未来を憂いても仕方ない、飲むか。」
「そうだね!!!いやもう結構飲んでるけどね!!あはは!!!」
ミケが更にボトルを傾けて、それぞれの空いたグラスに酒を注ぎたす。なかなかに酔いが回っていそうなハンジがそれを笑いながら歓迎し、ミケの肩を抱いてぎゃあぎゃあと喚く。
いつものようにリヴァイはそれを横目で見ながら顔色一つ変えずに酒を喉に流し込んだ。
ふ、と一息ついて、騒ぐハンジを横にリヴァイが小さく呟く。