第86章 遺志
翌日日が昇りきる前に、帰還するための復路に着く。
今回取ったウォール・マリアまでのルートは良いものだったのかと思う。とても順調に事が運んでいるようだ。隊に大きな乱れもなく、このまま帰着できると思った。
木の生い茂る森を避けて、隊は進む。
だが最左翼の私たちが、若干森に干渉した時に――――――木の上からの急襲を受けた。
本来なら遠目で巨人を発見した時点で信煙弾を放ち、戦闘ではなくなるべく巻いて進む、それが長距離索敵陣形の本来の策だ。けれど頭上から急襲を受けた以上、もう戦う選択肢しか残されていなかった。
辛うじて赤と紫の信煙弾を放ってから、うむを言わさず戦闘に入る。―――――でももう既に、2人は私の目の前で馬ごと叩き潰されてしまった。
「―――――ひっ………!!!」
大きく巨人が着地した地響きで、馬が動揺したようだった。大きく跳ね、制御が出来ない。愛馬の両目を手で覆って、落ち着かせようと試みてもダメだ。後ろ脚を蹴り上げ、極度の興奮状態に見えた。
このままだとふり落とされてしまう――――――と、馬に気を取られていた。気が付けば、巨人のその――――――仲間を叩きつぶした手が私に伸ばされ、勢いよく身体は吹き飛んだ。
「きゃあぁぁぁあっっっ!!!」
転がりながら敵をなんとか目で捉えると、私の他に捉えた仲間を美味しそうに、恍惚の表情で、食っている。
その口から、バタバタと足掻く腕がちぎれて―――――落ちた。
「やってやる………!!倒して、やる……!!!!」
恐怖よりも怒りが勝る。
よくも私の仲間を――――――食う必要もなく生きて行けるお前たちが、なぜ悪戯に人を食う?
沸き上がる憎悪の中、アンカーを射出しようとトリガーを引く。幸いここは森の中だ。立体機動を使いやすい。
が、トリガーはカチカチと鳴るだけで、その意味を果たさなかった。
「――――え、っ……なんで……?!」
焦りを押さえながら何度も何度もカチカチとトリガーを引いても、反応しない。
馬もいない。
立体機動装置は壊れたようだ。
これは何と言おうと―――――――絶望的だ。