第86章 遺志
「……お堅いイルゼさんにはそう見えるかもしれないですけど、身体目当てに言い寄ってくる男なんかと兵長は違う。だから好きなんです。――――私のこと嫌いでいいけど、勝手に私の兵長への想いを軽いと決めつけないでくださいよ。」
「――――………!」
「手に入れたいから、使える武器はなんだって使う。―――――最初から諦めて、戦うことすら放棄したイルゼさんになにも言われたくないです。」
「……っ…………!」
私は拳を握りしめた。
言い返せなかった。
リンファさんのようにサラサラで艶やかな黒髪とは程遠いごわついた黒髪とそばかすの目立つ肌。ナナさんやアリシアのように大きくキラキラした目を羨んでいる。
―――――決してリヴァイ兵長の横に自分が並ぶ想像なんて、できない。
いつもそうだ、私は自分に自信がなくて―――――、何も誇れる事が無くて、誰かと争う前にその場を降りる。
傍観者になることで、傷つかずにいようとする。
わかってる、そんなこと。
自分が一番自分を情けなく思ってる。
でも、私だって、私のやり方で戦おうと思ってる。
兵士として役に立つ。
私がいたことを、兵長を想う気持ちがあったから頑張れたということを、証明するために。だから苦手な立体機動も、戦闘も、嫌というほど訓練してきた。
それでもペトラやオルオや―――――グンタには敵わないけれど、私は諦めずに積み上げていくしかないから。
放棄したなんてアリシアに決めつけられたくない。
爆発しそうな怒りを鎮めようとその場を後にした。