第86章 遺志
「ああでも、もしかしたらもうすぐ、部屋貸してもらわなくてもよくなるかもです。」
アリシアは上機嫌に笑った。
「は………?」
「――――だってリヴァイ兵長は、私室を持ってるから。」
「…………!」
目を見開いた私に、どこか無邪気に話し出す。
「ナナさんと別れたみたいだし、ダメ元で行ってみたんですけど――――、ちょっとは脈ありかもしれないなって。ほら私、ちょっとナナさんに似てませんか?あいにく邪魔が入っちゃったけど、もしかしたら―――――」
ゆるく巻かれた金髪を指でくるくると遊ばせながらアリシアが発した言葉に、怒りが込み上げる。
「―――――一緒にしないで……!」
「え?」
「ナナさんを、あんたなんかと一緒にしないでよ……!」
私の様子を見て、アリシアはきょとんとした顔をした後、また少し笑う。
「え、意味わかんない。イルゼさんも兵長のこと好きなのに、ナナさんのことも好きっておかしくないですか?」
「あんたには、わからない。」
「ふうん………。」
「それに、兵長のことが好きならなんで他の男連れ込んでるの?おかしいじゃない……!そんな軽い気持ちで兵長に―――――!」
「――――軽い気持ちじゃないですよ。」
いつもふわふわと話をかわすアリシアが、その時だけはまっすぐ私を見た。