第86章 遺志
「――――私は最初ね、リヴァイとナナが想い合えば、エルヴィンの望んだ兵士長像にリヴァイが近づくから良し。もしリヴァイとナナが共に歩まないなら、エルヴィンがナナを手に入れるっていう二段構えだと思ってたんだけど。」
ハンジの考察は本当に鋭い。
だからこそ信用できるし分隊長も任せられる。が、そんなに序盤からそこまで見透かされていたのなら、私もまだまだだなと自嘲する。
「すんごい悔しいことに、リヴァイもしっかりあなたの狙い通りの“兵士長”になってて、しかもナナまでちゃっかり手に入れているところがもう、抜け目無さ過ぎて怖いよね。」
「はは………まぁ、色々あったぞ?それなりに。」
「――――だろうね。だから、エルヴィンはこんなに変わったんだ。」
「…………。」
「誰にも心許さない、鉄の鎧でも纏ったみたいな冷たいエルヴィンじゃない、1人の人間のエルヴィン・スミスに私は興味津々だよ。―――――だから、ナナにまた感謝してる。」
ハンジはふっと天井を仰いで、腕を大きく伸ばして伸びをした。
「――――この壁外調査は、横にナナはいないし――――、たくさん仲間が死んで、心を押しつぶされそうになってもエルヴィンを抱き締めてあげられるナナはいないから。――――無事終わったらさ、酒でも飲もうよ。リヴァイと、ミケと。」
「ああ………いいな。賛成だ。」
「まぁ誰も死なず帰還できたらそんな必要もないんだけどね。」
「――――そうだな。」
「あぁごめん、執務残ってるのに長居しちゃって!」
「いや。―――――ハンジ、次の王都招集は一緒に行くか?ナナに、会いに。」
部屋を去ろうと立ち上がったハンジに提案を投げかけると、ハンジはとても嬉しそうに目を輝かせた。
「えっいいの?!」
「――――うちの分隊長に元気がないと、どうも調子が出ないからな。それに――――、ナナも喜ぶ。」
「嬉しい!ありがとう、エルヴィン!!!!楽しみにしてる!!!」
ハンジは嬉しそうな笑顔で、団長室を後にした。