第86章 遺志
「ねぇエルヴィン、ナナは元気?もう半年も会ってないからさ、私ナナ欠乏で気持ちが沈むよ。もうこの際惚気でもいいからさ、ナナのことちょっと聞かせてよ。」
ハンジが幹部会の後に珍しく団長室に残って、はぁ~っと息を吐いてソファに寄りかかった。
ナナが離団してから、少なからずハンジの研究が少し滞っている気がする。
ナナはモブリットのように常にハンジの側にいるわけではなかったが、団長補佐の執務の合間をぬった短い時間であってもハンジの熱量に応えるようにして密な時間を過ごしていたようだったから―――――、ハンジも寂しいのだろう。
「ああ、家のことは本当に大変そうだが……なんとかやってるようだ。……とはいえ私も1~2ヶ月に1度しか会わないからな。」
「えぇ、でも食事したりなんやらかんやらナナを補充できてるんでしょ?」
「ああ……まぁな。」
「………相変わらず可愛い?」
「―――――……過ぎるほどに可愛い。」
その言葉を選んだ瞬間にナナの顔が思い起こされ、ふっと張り詰めていた糸が緩むように顔が綻ぶ。
「………うわぁぁああもう惚気が過ぎるよ!!!聞いてらんない!!!」
「ハンジが言ったんだろう、惚気でもいいと。」
「まぁそうだ!いや~……エルヴィン、変わったね?」
「そうか?」
「いや、だって最初ナナのことはリヴァイを兵士長として完成させるために側に置こうとしてたじゃない。」
「お見通しか。そうだな。」
「それがいつの間にか、横取りしちゃってさ?」
「ああ。」
ハンジは頬杖をついてどこか嬉しそうに茶化す。
「――――更にこんなどっぷり嵌っちゃってさ?」
「………ああ。」
ふっと笑いが込み上げる。
まぁ自覚はしていたが。
ハンジから見てもそうだとは、いよいよ本当に重症だな。