第86章 遺志
――――夏。
ナナが兵団を離れてもう半年が過ぎようとしている。
蒸し返すような嫌な熱さが連日続く中での壁外調査が、数日後に迫る。
前回の調査で確立した長距離索敵陣形を生かして、いつか来たる日にウォール・マリアの穴を防ぐ作戦が実行された際に辿るルートを模索しつつ、ウォール・マリアを目指す。
奪還作戦の時以来、知性を持つような行動を見せる巨人にも一向に出会わず、奇行種の捕獲作戦も未だ頓挫したままだ。
ナナの企画した翼の日の収益や今後の資金援助のツテも構築できたものの、まだまだ調査にかける費用や内容への発言権は大きくない。
ザックレー総統という人物をもっと知ってもっと入りこまなければ―――――。
ナナはその点でも非常によくやってくれていた。ザックレー総統の本質を見定め、かつその懐にいとも簡単にするりと入ってしまった。
彼女が再び戻って来たら、もっともっと私の片腕としてやってもらいたいことが山積みだ。