第85章 逢瀬 ※
「あなたの瞳を見つめる幸福を、私に与えていただけないでしょうか?」
ナナの顔がみるみる赤くなる。
お姫様呼びと言い、彼女はこういったベタすぎるアプローチに本当に弱い。異性との関わりというものを経験しないまま育ってきたんだろう。
「…………こういうとき……大人なら、なんて返したらいいんですか……?」
「………さぁ、どうだろう。君の思うままに返答してごらん。」
意地悪にまたその問を差し戻すと、ナナはおろおろとしながら答えた。
「――――もう少しあなたといたかったから――――……私としても好都合です。」
「……………。」
「えっ。」
ナナの思わぬ返答に目を丸くする俺を見て、またナナが不安そうに戸惑った。
「ははは!!好都合?そんな色気のない言い方では、大人の女性とは程遠い。」
「ええ………。」
一生懸命考えた答えに俺が笑ったからか、彼女は少し拗ねたように唇を尖らせた。少しかがんで、その耳元に唇を寄せて囁く。
「―――――だが、俺には刺さる。可愛い。」
「…………!」
ナナは再び顔を真っ赤にして、うつむいた。
「久しぶりにマスターに会いに行くか。」
「行く!!」
顔を真っ赤にしていたかと思えば、ぱぁっと花が咲いたように俺を見上げて笑う。
勘弁してくれ。
どこまで俺を夢中にさせたら気が済むんだ。
俺が今兵服じゃなかったら、調査兵団の団長としてではなく、ただのエルヴィン・スミスとして君の横にいたなら。
人目もはばからずに抱きしめてキスをしているに違いない。