第1章 出会
それから何度か、時計塔で他愛もない話をした。
彼の優しさがそうさせるのか、会話がない時間さえも居心地が良かったのを覚えている。
私が読書をしていると、ワーナーさんは小さな声で優しい歌を口ずさむ。聞いたことのないメロディに、聞いたことのない言葉をのせて。
「聞いたことのない言葉ね。なんて言ったの…?」
「………彼らはやがて、無限の自由と希望を手にするのだろう………なんて素晴らしい世界だ。」
ワーナーさんから紡がれる言葉は、暖かい。
「素敵ね。」
私は目を輝かせていただろう。
彼の口から紡がれる滑らかな言葉は、私を魅了していった。彼の口ずさむ歌を、すっかり覚えてしまうほどに。
その言葉や異文化への興味は抑えきれず、私はついにワーナーさんの家にまで上がりこむようになった。
地下街へ行くのは少し怖かったが、なんてことはない。ワーナーさんの家で、見たこともない書物に記される外の世界に思いを馳せるのが、何よりの楽しみだった。
ある日、私はワーナーさんを驚かせたくて、彼がいつも口ずさむ歌を、少しアレンジを加えて披露した。歌は得意だったから。
ワーナーさんは、目を丸くしていた。
「………どうだった?」
照れながら感想を問うと、ワーナーさんは見たこともないような笑顔で頭を撫でてくれた。
「………驚いた。まるで天使の歌声だ。ナナは、歌手を目指しているのか?」
「ううん。歌は好きだけど………私は、医者になるの。」
「医者?」
ワーナーさんは、輪をかけて驚いた表情を見せた。