第85章 逢瀬 ※
ザックレー総統の部屋を後にして、ピクシス司令が待ってくださっている一室へ向かう。扉を鳴らすと、優しい声が入室を許可した。
「ナナ。おお、随分良さそうじゃないか。」
「はい。この度はお見舞いの品まで頂き……本当にご厚意、感謝致します。おかげさまでもう随分良くなりました。」
私は深々と頭を下げた。
「いや、大したものじゃない。そしてまた今日は一段と美しいの。おいエルヴィン、これを兵団内に置いて置くのも気が気じゃなかろう?離団させたのはお前の私利私欲じゃないだろうな?」
ピクシス司令が冗談めかして笑う。エルヴィン団長もそつなくかわして、いつもの様子で受け答えた。
「――――バレましたか。事あるごとに手を出されるのでね。もういっそ離団ではなく退団させて、囲いたいくらいですよ。」
「はは、彼女がうんと言わんのだろう。いい気味じゃ。お主のような色男が振り回されているのは小気味いいわい。」
ピクシス司令の怖いところは、こんな風に冗談を言ったり話を煙に巻いたりするのに、人の本心や心の裏を見定めてしまわれるところだ。とんでもない観察眼と会話術で人の心を掌握していく。
エルヴィン団長やリヴァイ兵士長、ハンジさんやミケさんと……すごいと思う人は多々調査兵団にもいるけれど、また色の違うタイプの指揮官で、その凄さを私はまだ理解しきっていないのだろう。
「ナナ、今日は会えて良かった。身体はしっかり治せよ。この姿も美しくて素敵じゃが、儂はやっぱり自由の翼を背負うナナが一番じゃと思う。」
「はい!」