第84章 奞
次の日の朝。
荷物をまとめて、誰もいない自室の扉を閉めた。次に戻る時にはもう、別の仲間がここで過ごしているのだろう。
アルルとリンファとの日々を懐かしく思い起こす。
「――――行こうか、ナナ。」
「はい!」
エルヴィン団長が王都招集に行くタイミングと重ねて、共に王都に向かう。以前のような私への脅威は特にないと思われたが、念のため、との配慮だった。
見送りはいらないと言っていた。
それでも、ミケさんとハンジさんが兵舎の中から手を振ってくれているのが見える。
そしてきっとその横に―――――、腕を組んだまま難しい顔をしたリヴァイ兵士長も、いるんだろう。
一時の別れ。
また必ず戻ると強く想いながら、私は兵舎を後にした。
家まで私を送ると、エルヴィン団長は私の頭を撫でて言った。
「次の王都招集で、また会おう。兵団本部で待ってる。」
「はい。」
「クロエさんとロイ君、ハルさんにも宜しく。」
「はい。」
「―――――何かあったら……いや、なくても………手紙をくれると、とても嬉しい。」
ほんの少し、寂しそうに視線を落とすのは、団長じゃないエルヴィンの仕草だ。
「ふふ、はい。いつも想ってます。必ず帰ります、あなたの元に。」
「――――ああ。」
どちらからともなく距離を縮めて、そっとキスをした。