第84章 奞
「――――おいオルオ、ペトラ。喋ってねぇで準備を手伝え。」
少し離れたところから、リヴァイ兵士長が2人を呼ぶ。
「はいっ!!兵長!!」
「はい、今行きます!じゃあナナさん!失礼します!」
2人が駆け抜けて行ったことで起きた風に揺さぶられるように、ほんの少し胸が痛む。
彼の隣に並ぶのはあの子達で、私じゃない。
少し振り向くと、リヴァイ兵士長を心から慕って、横に並ぼうとしている2人の姿が眩しく見える。
――――ねぇリヴァイさん。気付いてる?
エルヴィン団長にハンジさん、ミケさん。ペトラやオルオ、サッシュさんに…グンタさんやナナバさん、エルドさん……ゲルガーさん、モブリットさん。
あなたの周りに、あなたのことを愛してやまない人がたくさんいる。
あなたが不器用な優しさを示せる相手が、たくさんいる。
いつかリンファが言ってくれた―――――私がリヴァイさんをほんの少しでも変えるきっかけを作れたのだとしたら。
あなたの心を少し溶かして、こんなにも愛すべき仲間に囲まれる今に結びつく、その一端を担えたんだったら。
私は嬉しい。
―――――例え私がいなくなっても、あなたはきっと新しい生きる意味を見い出せる。
「―――――私があなたの側にいた意味があって良かった。―――――大好きなあなたを、苦しめただけじゃなくて、良かった………。」
たくさんの仲間が、私の横を通り過ぎてリヴァイさんのところへ駆けていく。
私だけのヒーローだったリヴァイさんが、こんなにもたくさんの同志を率いて風を起こす。
その風があるからこそ、自由の翼は羽ばたける。
この世界を、人類の未来を変えるほどの力を生む。
私はしばらく立ち尽くした。
頬を流れる涙は、決して、悲しいからじゃない。
嬉しいからだ。
望んだとおり、私の想いが叶ったんだから。
巻き起こった風を見送ってから、今度こそその場を後にした。