第84章 奞
「ねぇリヴァイさん。」
その声でその呼び方をされると、嫌というほどお前との日々が蘇る。
「あなたがずっと守ってくれたナナは、ずいぶん強くなったと思いませんか。」
「――――こないだまで心身ともにボロボロだった奴のセリフじゃねぇな。」
「まぁそりゃ……そうなんですけど。でも、戻って来たでしょう?もちろん……色んな人の厚意や思いやりに頼りつつ、ではありますが。」
「――――ああ。」
「――――だから大丈夫です。私は明日からしばらくいなくなるけど……心配しないで。もうきっと――――あなたを乱すことも、ない。」
「――――……そうか。」
「はい。」
「――――なぁナナ。いなくなる前に答えろ。」
「はい。」
「――――お前にとって俺は、なんだ。」
「…………。」
ナナはその問に少し目を丸くして、どこか泣きそうな顔で笑った。
「――――仲間想いで、強く厳しい―――――敬愛する上官、リヴァイ兵士長です。」
「――――そうか。」
「――――………はい。兵士として私を導いてくれて、ありがとうございました。ひとまず一時のお別れです。」
「……ああ、気を付けて行けよ。」
「はい。―――――ふふ………。こんな時にまで――――……やっぱりあなたは――――優しい。」
白銀の髪をなびかせて、ナナは背を向けた。
――――なんてことはない。
いつかこの手を離れて、本当にただの兵士長と部下になるということは分かりきっていた。
ただ時々、その柔らかく微笑む目に俺を映したくなるだけだ。
ただ時々、この腕の中に閉じ込めて、お前の声が甘く俺の名を呼んで―――――お前の笑顔だけを守って、悩ましく俺のためだけに鳴かせたいと思う。ただそれだけだ。
それはただの性欲に近しいものであって―――――、
決して、愛してるからじゃない。