第84章 奞
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壁外調査で負った奴らの傷もようやく癒えてきて、訓練に戻れそうな者も多い。柔らかい日が射す晴天の下で、今日の訓練の準備をする。
「――――リヴァイ兵士長!」
その鈴を転がすような―――――もう一度聞きたいと願っていたその声に驚いて振り向いた。
左手はまだ吊ったままだが、兵服に身を包んだナナが、俺に笑顔を向けている。
「――――お前……声、治ったのか。」
「そうみたいです。ご心配おかけしました。」
「――――そうか。」
そうみたい……か。いとも簡単に片づけてくれるな。人の気も知らねぇで。
「いなくなる前に、ちゃんとお礼を言いたかったんです。」
「なんのだ。」
「リヴァイ兵士長がこの不自由な左手でのトリガーの引き方を一緒に考えて、習得まで見守って下さらなかったら―――――、私、死んでました。」
「………俺は大したことはしてねぇ。いつもそうだ。――――お前を守ったのは、リンファだ。」
「はい、リンファにももちろん感謝してます。感謝してもしても―――――しきれないくらい。」
「――――………。」
「でも、戦えたんです。まだまだ……到底、みんなには遠く及ばないけど……ほんの数分でも自分の力で抗えたから。『俺の視界に入らないところで死ぬな』という、兵士長命令に背かずに済みました。」
俺はその命令をしたにも関わらず、お前を視界から消したんだと、胸の内で呟く。
ナナの目を、見ることができなかった。